【読書レビュー】『経営戦略全史』 三谷宏治
このブログでは、毎回自身で読んだ本について、その内容と骨子をまとめたものを掲載していくものである。
■お薦め度:★★★★★
■タイトル:『経営戦略全史』
■著者:三谷宏治
K.I.T.虎ノ門大学院主任教授(金沢工業大学 虎ノ門キャンパス)、グロービス経営大学院客員教授、早稲田大学ビジネススクール客員教授、永平寺ふるさと大使、NPO法人 アフタースクール 理事、NPO法人 3keys 理事。
ボストンコンサルティンググループ勤務のち、アクセンチュア勤務。福井県出身。
<著者の主張>
60年代に始まったポジショニング派が80年代までは圧倒的で、それ以降はケイパビリティ(組織・ヒト・プロセス)派が優勢。
ヘンリー・ミンツバーグ「全ては状況次第、外部環境が大事な時は、ポジショニング派的に、内部環境が大事なときはケイパビリティ派的にやればいい」
21世紀に入って、経済・経営環境の変化、技術進化のスピードは劇的に上がり、今までのポジショニングもケイパビリティも、あっという間に陳腐化する時代。
そこで、アダプティブ戦略です。「やってみなくてはわからない。どんなポジショニングでどのケイパビリティで戦うべきなのか。ちゃちゃっと試行錯誤をして決めよう」
ポジショニング派:外部環境が大事。儲かる市場で儲かる立場を占めれば勝てる
大テイラー主義:定量分析や定型的計画プロセスで経営戦略は理解できる
EX:アンゾフ・マトリクス、SWOT分析、経験曲線、成長・シェアマトリクス、ビジネス・システム、5力(ファイブフォース)分析
ケイパビリティ派:内部環境が大事。自社の強みがあるところで戦えば勝てる。
大メイヨ−主義:企業活動は人間的側面が重く定性的議論しか馴染まない。
優れたリーダーシップに点数はつけられない、組織の柔軟性を数字にできない、学習する組織をどうグラフ化するのか。
<ポイント>
1970年代:1973年オイルショック 原油価格は1バレル3ドルから12ドルまで4倍に
■フレデリック・テイラー(1856−1915)
ハーバード大学合格したが、目を悪くして退学、ポンプ工場に見習いとして就職。
科学的管理法で怠業を解決する。
⇒産業が拡大し、若い未熟練工が大量に働くようになったこの時代、人々は公正な条件の下で、より高い賃金を求めていた。
■ヘンリー・フォード ()
16歳の時に見習い機械工として社会に出、エジソン照明会社のエンジニア等を経て、1896年自動車会社をつくる。
科学的管理法(作業時間・動作分析、作業の標準化・マニュアル化)⇒徹底した分業化と流れ作業
大衆社会をつくったヒト
経営者としては、「より多くの賃金を従業員に払う」ということを主たる動機として持つべきだ。
⇒労働時間も短く、給料のいいが、豊かな大衆は単純作業に耐えられなくなる。
■エルトン・メイヨー
精神的疲労(単純さ、孤独さ)の回避
1日4回10分づつの短い休憩時間 が職場への不満を大きく改善
労働意欲は労働条件より人間関係が決める
⇒雑談で生産性が向上、ルールを押し付ける上司より、耳を傾け裁量権をくれる上司で士気が上がる。
欲求階層説:
1)生理的欲求
2)安全欲求
3)愛・所属の欲求
4)自尊の欲求
5)自己実現の欲求
⇒釈迦 人間の欲求についてこの世ではじめて深く切り込んだ
心理学ですてることを「手放す」といい。できない理由を「執着」とする。
ヒトは感情の生き物だが、コントロールできる。特に欲をなくせば幸せになれる。
■アンリ・フェイヨル (1841−1925)
管理者による経営・管理プロセスの遂行で生産性は上がる
組織が大きくなると経営活動の比率が上がる。
■チェスター・バナード (1886−1961)
企業を単なる組織ではなく、システムと位置づける。
成立条件「共通の目的(経営戦略)」「貢献意欲」「コミュニケーション」
⇒自らの組織(システム)に「共通の目的(経営戦略)」を与えるのは経営者の役割
暗黒の1930年代、第一次世界大戦後の好景気から一転しアメリカのダウ平均株価は5分の1に。
⇒イギリスは旧植民地各国によるブロック経済へ
大きな外部環境変化に対して、経営者がどういった方向を打ち出し、どう対処するかで、企業の命運が決まった10年。
⇒フェイヨルの「計画」と「経営戦略」
・アルフレッド・スローン (1875−1966)
GMはマーケティング(多ブランド戦略)や在庫管理に成功しシェアを伸ばす。
⇒「松下が今日終わるのであれば、従業員を解雇してもいい。しかしそうでないなら雇用は守る。そうでなければ働くものが不安を覚えて、これから会社をもっと大きくしていくことなどできない」
「直ちに工場は半日勤務にして生産を半減せよ。しかし従業員の給料は全額を支給する。そのかわり休日返上、全員で在庫を売り切れ!」
⇒2ヶ月で在庫を売り切る
■ピーター・ドラッカー (1909−2005)
ウィーン生まれ。
「マーケティングの目的は販売を不要にすることである」
「企業のあらゆる機能の中で、マーケティングは、唯一アウトソーシングできない中核機能である」
ドラッカーの企業経営の3側面
1)顧客の創造 ⇒企業は顧客に価値を創造するためにある
2)人間的機関 ⇒企業はヒトを生産的な存在とするためにある
3)社会的機関 ⇒企業は社会やコミュニティの公益をなすためにある
■イゴール・アンゾフ (1918−2002)
ロシア
アンゾフは軍用用語である「戦略」を使って「市場における競争」という概念を持ち込んだ。
3Sモデル:意思決定の対象を、戦略(Strategy)・組織(Structure)・システム(System)で考える
ギャップ分析
経営戦略
2)それらを全体を管理・統合する「企業戦略」⇒事業のポートフォリオ管理
コア・コンピタンス論:競争に勝つにはコアとなる強みがなくてはならない。
アンゾフ・マトリクス
ポジショニング重視だけでもケイパビリティ重視だけでも失敗する。その両方が環境に合わせて歩調をそろえなくては失敗する。
■アルフレッド・チャンドラー (1918−2007)
・事業戦略と組織戦略は深く関わり「事業⇒組織」も「組織⇒事業」もある
・組織は変えにくいので事業戦略が先導しがち
■マーヴィン・バウアー (1903−2003)
近代マネジメントコンサルティングの父
マッキンゼー・アンド・カンパニー:経営コンサルタントとは(医師や弁護士のような)プロフェッショナルなのだと定義
商品の絞り込みと作業や答えの標準化によって、マッキンゼーはプロフェッショナルファームに陥りがちな「成長の壁」を超えて、大きく飛躍できた。
17年の任期中、マッキンゼーの売上高を200万ドルから10倍の2000万ドルに拡大。
■ケネス・アンドルーズ (1916−2005)
■フィリップ・コトラー (1931−)
戦略的マーケティング・プロセス
1)調査 R
2)セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング STP
3)マーケティング・ミックス MM
4)実施 I
5)管理 C
エヴェリット・ロジャース (1931−2004)
■ブルース・ヘンダーソン (1915−1992)
48歳でBCG立ち上げ
「ビジネス経験不問。高度な知的欲求と知的水準を求む」とリクルーティング
⇒ジョン・クラークソン(1943−)社員番号一桁
・経験曲線:生産・販売量を増やして市場シェアを上げれば、経験曲線を競合より早くかけおりることができる。
■アラン・ゼーコン
「事業に自身があるなら借金を増やせ」
■リチャード・ロックリッジ BCG入社1年の天才コンサルタント
BCGの成長・シェアマトリクス
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1973年オイルショック
エジプト・シリア軍がイスラエル軍を奇襲。サウジアラビアやイラク・クウェートといったアラブ諸国も軍事的資金的な支援をして始まったのが第四次中東戦争。直後、中東の産油国によって、イスラエル支持国への段階的な原油の値上げと供給停止措置が打ち出され、原油の輸入価格はたった4ヶ月で約4倍に。
■マイケル・ポーター (1947−)
ファイブフォース分析
1)競争戦略を策定する際、もっとも重要なのは企業をその環境との関係でとらえる
2)その環境として大切なのは、その企業がいる業界の定義とその構造
3)業界構造は自社にかかる圧力として理解でき、それには「既存競合」「買い手」「供給者」「新規参入者」「代替品」の5種類がある
4)その中でもっとも強い力が、決め手となる
ポーターはポジショニングを重視。
「設けられる市場」を選んで、かつ競合に対して「儲かる位置取り」をしていないとどんなに努力しても無駄だ
戦略3類型
全体で戦う時の位置取りには、究極2種類しかない
「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」
究極自分たちは何で戦うのか、どんなポジションを目指すのか明らかにせよ。
企業の各部門の活動を、価値創造の連鎖ととらえた。
ポジショニングを維持するための「よい(儲ける)企業能力(ケイパビリティ)」が必要だ
■ホンダ効果
ホンダは当時明示的な戦略はなかった。ホンダの戦略は、失敗の積み重ねる中で創発的に生まれでたものだ。
・なぜアメリカで小型バイクを販売しようと思ったのか?
最初はアメリカ人に馬鹿にされたくなくて中大型バイクを中心に売るつもりだったが大して売れず、しかも乗り方が違うので故障ばかりして大変だった」「ところが社員に商用で乗り回してしたスーパーカブに人気が集まり、それを真面目に売り出すことにした」「そうしたら当たった」
・売上目標はどうやって決めたか?
「直感で決めた」「欧州からの輸入車の10%はとれるだろうと思った」
・なぜ欧州でなくアメリカを選んだのか?
「戦略などなかった。本場のアメリカでどれだけやれるかやってみようと思っていただけ」
■トム・ピーターズ
「エクセレント・カンパニー」出版
優良企業では、戦略や指示ではなく「価値観の共有によるマネジメント」が行われている。
7S
■ジョージ・ストーク (1951−)
タイムベース戦略
時間をベースにした戦略:「あらゆるものの(コストでなく)時間を測る」という手法
■マイケル・ハマー (1948−2008)
リエンジニアリング革命
■ゲイリー・ハメル (1954−)
・企業が収益を生む源泉は、事業のポジショニングにも、業務のポジショニングにも業務の効率性にもない
・その中間に位置する「コンピタンス」が大切であり、その中でも競争力やニーズ対応力の素になっているものが「コア・コンピタンス」
・コア・コンピタンスは技術でも、チャネルでも、人材的なものでも構わない。
1)競争相手に真似されにくい
2)顧客価値(顧客が認める価値)を創出できる
3)他事業への展開力がある
■ヨゼフ・シュンペーター (1950−)
イノベーション理論の始祖
「企業家の行う不断のイノベーションこそが経済を変動させる」
・イノベーションの不連続性
イノベーションは担当変更を行う。鉄道の建設者は郵便馬車の事業者ではなかった。
■リチャード・フォスター
■ハワード・スティーブンソン
投資家を説得するための一番のアピールはプランで無くヒトだ。
1)戦略の立て方:今の資源に囚われず機会を追求
2)機会への対応:長期に徐々にでなく素早く対応する
3)経営資源:所有するのではなく、必要なだけ外から調達
4)組織構造:ヒエラルキー型でなくフラットに。インフォーマルなネットワークで多重に結ぶ
5)報奨システム:個人ではなくチーム単位で。固定式でなく儲けに応じて分配。
※アマル・ビデ(1955−)の調査
1983年度にもっとも速く成長していたアメリカ企業500社において7割近くが
「起業時にちゃんとしたビジネスプラン(戦略と資源計画)などなかった」
■ヘンリー・ミンツバーグ
良きマネジャーは教室では育たない。良き戦略は机上で定型的には生まれない。
■チャン・キム、レネ・モボルニュ
ブルーオーシャン戦略
良い戦略とは、敵のいない新しい市場を創りだすこと
戦略とは、新しい市場コンセプトの案出とそれを実現するケイパビリティの創造(=バリューイノベーション)
スピードをもって企業し、ゆっくり成長
行く先を決めないまま、引越し業者にただ西海岸に走ってくれと頼む
誰よりも早くノウハウを手に入れることができたことが勝因。
アマゾン12年の年間売上高は611億ドル
■ムハンマド・ユヌス
グラミン銀行立ち上げ
「借り手の返済能力」を担保ではなく、「仲間からの信頼」ではかる
■ダンカン・ワッツ
「偶然の科学」
歴史から答えは学べない
ヒトは現在と過去を必然と思いたがる生き物。
「Everything is Obvious.Once you know the answer.」
闇夜のドライビング戦略
1)オープン・イノベーション 幅広い参加者を募って問題解決
2)ブライトスポット・アプローチ 良き偏差を生み出している親にその工夫や努力をヒアリングし、それを他の親に伝える活動
3)実地の対照実験
■ティム・ハーフォード
中央で考えた作戦や大局観は現場でまるで役立たない。
厳格な指揮命令系統をもった理想の組織の中で、現場からネガティブな情報も異なった意見も、全て排除される
⇒失敗の本質
■ティム・ブラウン (1962-)
デザイン思考 (循環プロセス)
良い解決策はユーザーを中心とした試行錯誤からしか生まれない。
■マーティン・リーヴス (1961-)
アダプティブ戦略
■用語
PhD:Doctor of Philosophy、Ph.D.(ピー・エイチ・ディー)は、おもに英語圏で授与されている博士号水準の学位である。
中興の祖:中興の祖(ちゅうこうのそ)とは、一般に「名君」と称される君主または統治者のうち、長期王朝、長期政権の中途、かつ危機的状況後に政権を担当して危機からの回復を達成し、政権の安定化や維持に多大な功績があったと歴史的評価を受ける者をいう。